2012年2月7日火曜日

富野由悠季『機動戦士Vガンダム』2巻

富野由悠季『機動戦士Vガンダム<2>マルチプル・モビルスーツ』
1993,角川書店

目次

24p
(マーベット)「伯爵がいっていたでしょう?ウッソは、ニュータイプだって。ふつうでない感性と能力をもっている子という意味でね。すくなくとも、初代ガンダムにのっていたアムロ・レイというパイロットは、そういわれていたわ。その後、いくつかのタイプのガンダムが登場して、それぞれニュータイプと期待されたパイロットたちがのって戦った……でも、ニュータイプって、天才的なパイロットのことではないのよ?ふつうの人よりは、世界をかんじられる感覚をもっていて、それでいて、自分が特別だとうぬぼれることがない感覚をもっている人のこと……でも、そういうスペシャルな人は、まだ出てはいないけれど、いつかは、本当のニュータイプがでてきて、人のすむ社会全体を、じょうずに操縦してくれるのよ。争いをしない社会をつくって、その社会が、環境を汚染させないですんで、誤解と感情的ないさかいのない社会をつくってくれる。それが、ニュング伯爵やジン・ジャハナムの言うニュータイプ………だからなのよ?このビクトリー・タイプのモビルスーツの顔は、ガンダムの系譜をひきついだ顔になっている。リガ・ミリティアの期待、希望をあらわしているの。だから、あのモビルスーツの制式名称は、ビクトリー・ガンダム」
 26p
(ジュンコ)「あたしたちは、イエロージャケットと命のやりとりをするんだ。そうなりゃ、兵器なんてのは、機構がシンプルなほうが確実なんだ。変形もドッキングもしないガンイージでいいのさ。これは、兵器の永遠の真理だよ」

63p
(ウッソ)
「……オリファーさん。スペース・コロニーって、なんで荒んでいるんです?」
ウッソは、オリファーの手がやすんだのをみはからって、きいた。
「温室だからな」
オリファーが、ウッソのほうをむいてくれた。
「温室……?」
「ウン……。大人ってな、専門職とかスペシャリストという考え方のなかで食ってきたというか、生活をしてきただろう。それで、社会全体のこととか、人間全体のことを考えなくなっていった……スペース・コロニーというのは、宇宙にあるからってなんて言うのかな、こう、ブワーッといた広いものじゃないんだな。だから、セコセコした人間をつくっていった……ま、そういうことだ」
「そうですか……そうだよな、空をかんじられないで生きていけば、自然をかんじられませんよね?まして、自然の無残さなんか、人間社会のロジックからは、うまれるわけがないんですよね」

125p
マリアが、フォンセ・カガチの説得に屈服した理由に、彼のその経歴もあった。
カガチは言ったものだ。
『木星までいって帰ってくるという環境は、地球的なものではありません。ですからですよ、お嬢さん。人類が、どれほど御しがたい種であるか、思い知ることができたのです。
そして、このわたしにすれば、最後の木星行きから帰ってきてみた地球圏の混乱というものは、どうしようもないものにみえました。ちょうど、旧世紀のニューヨークとかの都市のようにみえたのです。貧富の差ははげしく、おなじ街にすみながらも、民族のすみわけがあり、銃の不法所有者がいる。上下水道は、傷みがはげしく、しかも、その水道の水は、都市の必要性という理由だけで、理不尽な場所から取水されている。あげくに、都市がはきだすゴミは、都会の人間の目にみえないところにすてられつづけて、都市の基板をゆるがしていることにも、気づかないのです。
あげくが、天候まで影響をおよぼすような科学技術の乱用で、こっちにほころびがでれば、こちらの技術でかくし、そのことによってつぎの新しい不都合が生まれるというイタチゴッコをやってきました。その結果が、スペース・コロニーへの移民です。が、地球と同じことが、スペース・コロニー百年になれば、月までの空域でおこなわれているのです。
これはもう、人類がやっていることを根本的にやめさせるしかないのです。そのためにですよ。私は、あなたのマリアの教義の根底にある母なる心を大切にして、キリスト以来のマリアの恩寵を世にひろめるという考え方を利用させていただきたいのです』
『母なるものを大切に、ということが、人類社会の革新になるというのですね』
『母がいて子があるのです。これは原理です。それを試験管のなかでできると信じこんだ人類の浅知恵と、そういう知恵という力を信じるしか男の立場がない、とおもいこんでいる度しがたい男の論法を駆逐するためには、マリア主義という古来より人類がききなれた言葉は、武器になります。イスラムやブッキョーを信じるものには、抵抗がありましょうが、何、別の表現でせまればいいのです。ハディージャでもシャリーアでもカンノンボサツの恩寵でもいいのです』

129p
贈収賄で起訴された主犯グループに贈収賄の嫌疑をかけるように工作しておいて、これを糾弾して、ギロチン台に送ったのである。
そして、世論の賛否両論が渦巻くなか、ガチ党は、政権与党におどりでたのである。
ギロチンの年は、アメリア政庁が地球連邦政府から脱退して、ザンスカールを宣言するためには、さらに数年が必要であったが、一度のギロチンは、アメリアとその周辺のスペース・コロニーに決定的な威圧感をあたえて、世論は、急速にガチ党の標榜する新国家建設にかたむいていった。
その経過は、ほかのスペース・コロニー政庁が非難するほどの恐怖政治がとられたり、秘密警察による内偵や、共産主義政権下のような密告の奨励があったわけではない。
しかし、ガチ党に反対する勢力や政敵にたいして、何百回かギロチンの刃がおちたことは事実であったが、革命的に政権を奪取するにしては、ながされた血はすくなかった。
そこには、現代人がもっている血に対する過大反応が、ザンスカール健国に有利にはたらいたとみるのが順当であろう。
142p
(オリファー)「アハハハ……ぼくってなんでこんなに、もてんだろうかなー」

168p
第三国勢力といわれているものまでが、経済的なゆたかさをもとめ、はてしなく拡大生産を余儀なくされている資本主義経済の論理をのみこんでいけば、地球は、ひろくはない。
それが、旧世紀末の地球の閉塞情況であり、それを突破するために、スペース・コロニーが、消費を永遠に継続できる対象として認識されていったのである。
スペース・コロニーの建設が、資本主義経済を継続させうる要素になれば、人類は、みずからを間引きしないですむという発見である。
ここに、スペース・コロニーへの移民が推進された真実の動機があった。
人類は、資本主義経済体制というものがなければ、生きていけないシステムの動物になっていたのだ。
そして、スペース・コロニーを手にいれたときに、自然回帰現象が人類の心理のなかにそだち、戦争というものも、古典的な発想をベースにやってもいいのではないか、スペース・コロニーでのくらしからおこるフラストレーションを、戦争行為によって解消しよう、という衝動がうまれた。

188p
(ワタリー・ギラ)
声は、だしてはならない。口は、閉じられるだけ、閉じていなければ、舌をかんで死ぬ。そういうくだらないことで死んでいった奴は、腐るほどいるのだ。

227p
『人の可能性は、無限大かもしれない……』
ニュータイプというものが、本当にいるのかどうかという議論も、ウッソ・エヴィンという少年をみてしまえば、信じざるをえない心境にもなる
よしんば、そうでないにしても、この才能をもった少年がどう成長するのか、自分たち老人になにを教えてくれるのか、または、自分たちの教えようが正しければ、ニュータイプになりうるのかもしれない、といった興味は、はてしないほど拡大するのである。

229p
(マーベット)
「地球をザンスカールの勢力下におくには、地球連邦の影響下にある人びとは、すべて排除するというのが主義なのよ」

230p
(マーベット)
「主義がちがう人がいると、体制を維持するのがむずかしくなるから。これは、ズッと昔からの人間のやりかたね」
「単純すぎますよ。教育していって、自分たちのいうことをきかせるというのが、現代的なやりかたではないんですか」
  ウッソは、いいくるめられていく自分たちに気づいて抵抗した。
「ザンスカール帝国の創業者は、マリアではなくて、フォンセ・カガチ。彼の考え方の根本には、増えすぎた人類は自浄作用をはたらかせて、無駄な人間はすてるということなのよ。それがどういうことかわかるでしょう?」
「同調できる考え方ですけど、粛清される側にたったら……」
「君は、そういうことがわかる人よね?考え方はわかっても、ひとりの人間にやっていいことと悪いことというのがあるということは、フォンセ・カガチにわからせないといけないの。それは、フォンセ・カガチにかつぎだされて、女王になったマリア・アーモニアの母系社会をつくることが正論だとしても、カガチは、それをかくれ蓑にしているだけなのよ。だから、ザンスカール帝国のやり方は、ともかく、否定しなければならないのよ」
「理屈とぼくらの生活のバランス、とれていないから、いまは、カサレリアに帰って、考えたいんです」
「伯爵だっていっていたじゃない、みんながニュータイプになれるなら、自浄作用の方法だって発見できるかもしれない。そういう時間と場所を手にいれるためには、ともかく、ザンスカールのやり方だけは阻止して、あなたのようなニュータイプの素養をもっている人をのこしていかないと、人類の損失はおおきくなるの よ」
「だから、リガ・ミリティアにつきあえっていうんですか」
シャクティが、また悲しそうな顔をした。
そういうシャクティを見下ろして、マーベットは、ドキッとした。
シャクティのような子供が、自分のしゃべったことなどは、理解しているとはおもっていなかった。
しかし、シャクティの表情は、目の前の事態とカサレリアという隔絶した場所でくらすとういうことが、どういう意味をもっているか、とわかっているとおもえた。
カサレリアでウッソとくらすことは、現実から逃げることで、それは、人としてやってはいけないことだとわかっているからこそ、こんなにも悲しそうな表情をするのだ、とマーベットにはかんじられた。

244p
(オーティス)
「……革新的な技術や考え方というのは、マニアみたいな人間とか、とんでもなく天才的な人間の執念がつくったものさ。それに凡俗が注文をつけて、めちゃめちゃにしたり、あともどりさせたりする。それを、また利口なやつが修正して、つかいやすいものにしたり、平凡なものにしていくのさ。そうやって、人類全体としては、バランスをとってきたんだ。技術なんて、そんなものだね……ウッソくん」
「ボクのいった、おかしいという問題はどうなるんです?」
「機械をつかって戦争させられることかい?敵も同じリスクをしょって出てくるから、技術競争になってしまって、物事の本質を考えることはないわよなぁ」
オーティスのたっぷりした鼻の下の鬚が、モソモソと風にゆれた。
「技術競争……?そうですね……そういうことで、人間って大事なことを考えないできちゃったんだ」
「理想なんて、口でいうだけで、現実は、食うため金をもらうためで精一杯というのが、暮らしだろう」
「そうか……その暮らしに技術をもちこみすぎて、人類は楽に暮らすしかなくなってしまったんですか」
「そうだろう。利口すぎることの罰があたったんだ」
「利口すぎるんではなく、ちょっとだけ利口だったから問題なんでしょ?」
「そうだな。われわれ、西欧人は、なんでも分析し、解決できるという近代的思考におちいって現代をやってきたが、その考え方に問題があると気づいて、自然と調和する暮らしかたはないか、と考えたときには、資本主義経済体制を改革する方法を想像できなかったということだ。わかるか?」
「消費の奨励をしなければならない経済体制というより、人類のつくってしまったシステムを改革できなかった、ということですね」
「それが地球時代までの問題だな……現在は、何が問題だ?」
「スペース・コロニーに象徴される閉塞性に汚染されている人類全体のメンタリティのありかたでしょう?」
「どういう事かな?」
オーティスは機械油のカンで手をあらいながら、ウッソをふりあおいでくれた。
「フラストレーションが、ノスタルジア思考を誘発したり、クラシックなものすべてをいいものだとかんじるような感性ですね。そうだ。ザンスカールのマリア主義なんていう、宗教でもないのに宗教になってしまうようなものを、大衆全体が支持するなんて、いちばんシンボリックな事象でしょうね」
「そうだな。フォンセ・カガチは木星帰りの男なんだが、彼の方法が巧妙であっても、スペース・コロニーのアメリアの大衆の支持がなければ、ザンスカールはおこせなかったからな」

 280p
たいていの由緒ある家系というのものは、売り買いするのがあたりまえの時代になっているのだ。
ときに、ファッションとして、売り買いの値が上下する名前もあるのが、この宇宙時代の文化の一面でもあった。
ただ、その家系の由来を堅持しようとしたり、飾りにするだけであったりするのは、その時の名前を背負った人びとのこころざしによる。

294p
(ウッソ)
ニュング伯爵の肉を食らう人間はいない。それだけで、無駄な死なのである。
『動物たちは、そうして生きていかなければならないからこそ、つぎは、自分がほかの動物のエサになってしまうことになろうという輪廻のなかにいる……けど、人間はそういうことは一切拒否している動物なんだ……無駄な死を同族にする動物……!』
その動物の輪廻の埒外にいる人間が、一方で自由と主権をさけび、そのために、他者の同族を殺すのである。
そこには、あらゆる方向から考えていっても、破綻がある。
ひとり、人間だけが生きる、ひとり、人間だけが、他者のエサになることもなく人という生体を殺す。
感情的に殺すというのなら、まだわかるというものだ。
そうではなく、主義のちがいとか、体制のちがいにいるということを理由で殺すのである。
そこには理性がはたらいているのである。
それは、奇妙なことなのだ。

295p
(ウッソ)
『こういうことを思いつき、やってしまって、それが、歴史の必然などという言葉遣いは、やめなければならない。抹殺されなければならない種は、知恵をつかう人間の大人たちなのではないか?ぼくら子供が、その大人になるということは無惨なことだ。だとしたら、そうではない大人の世界を獲得しなければならない』



感想
小説版だとアニメより落ち着いてるな。Vガンダムの小説版、今まで読んだことのある富野由悠季の小説のなかで一番良くまとまってる。アニメの小説版とか、漫画のアニメ版とか、一回自分が原作知ってる奴ってイマイチ乗り気しなくてあんまり楽しくないんだけど、これはザンスカール軍の派閥闘争とか宇宙移民から100年以上経った時代の背景とか人物の心理描写とかが掘り下げられてて、おもしろい

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