2012年3月10日土曜日

読書メモ:小太刀右京『機動戦士ガンダムAGE』(1)

ガンダムAGEの小説版。ディケの心理描写が200%増し。時代背景とかほかのキャラの内面も掘り下げてて、原作のアニメより面白い




小太刀右京『機動戦士ガンダムAGE』(1)
2012,角川書店



24p
どこまでも続く遺伝子改良植物の緑と、豊かな田園風景。
この壁面を隔てた虚空のどこかで、戦争が起きていることなど、誰も信じはしないだろう。
アリンストン基地の兵士たちですら、戦争などは百年も昔の物語として知っているだけだ。
だが、フリット・アスノは知っている。
この世界が、戦争と悪意に満ちていることを。
母から託されたメモリーユニット、”AGEデバイス”と呼ばれるそれを握りしめて、少年は決意を新たにした。
大切な人々を守るのだ。
今度こそ。


27-28p
「おい、見ろよ。珍しいこともあるもんだ。フリットの野郎が来てやがるぜ」
「UEとの戦争にしか興味のないミリタリーヲタクがか?明日は気象コンピュータがいかれて、雨が降るんじゃないか?」


32p
「連邦軍は、何をやっているんだっ!戦場を市街地に広げているだけじゃないか!そんな戦い方じゃ、まるでダメなんだ!」


32p
エミリーを連れてきたのは、もちろん好意によるものだけれど、それだけではなかった。基地の整備班長の孫娘であるエミリーの知識と顔がなければ、彼の望むことは達成できない。そのような判断もまた、少年の中には同居していた。


36p
技術者としてのバルガス老人の言葉も真摯なら、少年とはいえ、開発者としてのフリットの言葉も真摯だった。
彼は怒っていた。。この日のために開発した自分のテクノロジーが生かされないことに。あれに乗るのは自分である必要はない。なすべきことは、他にある。
「どうしてだよバルガス!」
「どうもこうもない」
老人の言葉は、巌のように重かった。
「未完成のマシーンで何が出来る?今のガンダムは、歩くことさえままならんことは、おぬしが一番わかっておろうが!」
「歩かせるさ」
フリットは断固たる決意で、ポケットからAGEデバイスを取り出した。その中には、彼が徹夜でくみ上げた姿勢制御プログラムが収められている。

58p
「それでも」
エミリーはまた、あの響きを帯びた答えを返した。その視線はディケにも、エレカにもない。
「それでもフリットは、そうしなくちゃいけないから。そうしないと、運命に立ち向かうことができないから」
「……わかった」
ディケはそれ以上、何も言わないことにした。何かを言えば、自分の男を下げると、そう思ったからだ。
「代わりのエレカか、そいつを移動させるパワーローダーを見つけてくる。港に運び込むまでは、手伝うよ。連邦軍だってメチャクチャなんだから、大人に頼らずに、オレたちでやらなくちゃな!」
そうでなきゃ、死んだクラスメートに申し訳が立たないだろうが、という言葉は、飲み込んだ。
(チクショウ……童貞のままで死ぬのは嫌だよな、って話してただろうがよ……)
涙は、塩の味がして、生きている証だった。


117-118p
(ウルフ)
「お前、どうしてオレがエース・パイロットなのか、疑ってるだろ」
「……まあ」
「ガキのお前にゃわからんかもしれんが、今、地球圏のあちこちではゴタゴタが起きてる。ゴタゴタといっても、殴り合いやもめ事のことじゃない。モビルスーツを使っての殺し合いだ」
「そんな!銀の杯条約でMSによる戦争は放棄されたって……」
「建前はそうだ。だが、十四年前、UEが現れて連邦軍が組織されるようになると、民間自衛のたてまえで、MSの個人所有がなし崩し的に認められるようになった。そうなれば、手に入れた武力で問題を解決したくなるのが人間ってやつだ。オレはこの間まで、そういうバカどもと戦争をしていた」
「人間同士の……!?」
「もちろん、戦争は根絶された建前だからな。反連邦行為の鎮圧、ってことになってる。そもそも、人類政体は地球連邦政府しか存在しないしなーーーで、そこでお前みたいな年頃の兵士は、たくさん見たよ」
ウルフの言葉は、重かった。
「…殺したんですか?」
「ああ。こちらに銃を向けてくれば、そうするしかない。あいつらだって殺されたくないから、こちらに銃を向ける。撃たなければ、連中の家族が殺される。そういう仕組だ。おれは、それがイヤになった。そこでプロパガンダの英雄にされるのも、そういう連中を殺すのも。だから、一番きつい前線に回してくれるよう志願した」


118p
「……だから僕みたいな子供が戦場にいるのが、イヤなんですか?」
「当たり前だろうが。ガキは、未来だ。その未来を戦場に引きずり出して殺しをやらせるやつは、クズだ」


120-121p
(ラーガン)
「あなたの血管には血の代わりに不凍液でもながれてるんじゃないですか。そうであけりゃあ、そんな冷たい判断をしたら凍死しちまうでしょうよ」
(グルーデック)
「そんな当たり前のことをいちいち指摘するな、ラーガン中尉」